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【M&Aのよくある質問】上場企業でも買収できるのでしょうか

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買収できます。実際に、上場企業の買収は、一定の手続きを踏んで行われており、非上場会社が上場会社を買収して傘下に入れることもできるのです。

上場企業の株式は、証券市場を通して誰でもが取得できるわけですが、それ自体は資産形成のための投資目的で行われるのが一般的で、その規模はせいぜい10万円から百万円と言ったところでしょう。その場合、持ち分の移動は発行株式相総数の1%にも満たさないわけで、M&Aとは無縁のものです。

 

これが、一定の経営権を取得する、例えば過半数を取得するという目的であれば、話が変わってきます。この場合でも、市場で少しずつ株式を買い続けることは理論的には可能ですが、これには相当の時間がかかりますし、そもそも売却に応じる株主がそれだけいるかもわかりません。また買い上がるスピードによっては、市場がこれを察知して株価が徐々に値上がりすることが見込まれます。また、持ち分が5%を超えると、大量保有者として、内閣総理大臣に報告書を提出する義務が発生します。そうなりますと、ますますと突然現れた大株主に、対象会社の経営陣が警戒感を表すことになります。

 

では、実際上場企業の買収は、どのようなプロセスが取られているかと言いますと、一般的には、まず一定規模の持ち分を持った大株主と市場外での交渉を行います。この場合、取得を目指す株数にもよりますが、過半数の取得を目指すとすれば、大株主が3割程度を持っていることが望ましいですし、そのような大株主がいる上場株式が、買収のターゲットとなります。この大株主と一定の株価で株式を譲り受けることを水面下で合意できれば、次に株式の公開買付(TOB)の手続きに入ります。

 

株式の公開買付とは、特定の大株主と市場外で一定規模の株式の売買を行う場合、すべての他の株主に対して、特定の大株主と合意した株価を開示し、これと同じ価格で一定期間にて株式の買付けすることを告知し、これを実施するルールです。つまり、上場株式であるがゆえのすべての株主の平等性を担保する制度です。

株式の公開買付で重要となるのは、これを公告する際に、株式を買い付ける目的や場合によっては必要性、また買付け後の経営戦略などを戦略的に明示することです。また、対象会社側に事前に告知する必要は必ずしもありませんが、やはり事前にコンタクトして対象会社の取締役会の賛同を得ておくことが望まれます。取締役会で賛同が得られれば、対象会社はすべての株主に対して会社としての意見を公告し、公開買付に応じること勧めることになりますが、これがいわゆる友好的TOBと呼ばれるケースです。

逆に、対象会社側の賛同なしに行われる公開買付が敵対的TOBとなりますが、日本においてこれは難しいとよく言われます。しかしながら、敵対的TOBが株主の利益に資する場合もあり、そのイメージだけでこれを否定するものではないと私は考えており、それはまた別の機会に論じるとします。

 

さて、この株式の公開買付ですが、成功のポイントとなるのはやはりその価格です。通常、対象会社を戦略的に買いに向かう場合、その時の市場価格が100であったとしたら、これに例えば30%程度のプレミアムを付けることになります。プレミアムが大きければ、当然大株主はもちろん他の株主も交渉および募集に応じやすくなるのは当然です。一方、プレマムが大きい場合、ほとんどの株主が募集に応じると言った結果になることも考えられます。その場合は、対象会社の株式の流動性が欠如し、上場基準に抵触すると言った事態にもなります。もともと、買収後は上場を廃止するという前提であればそれは想定内ですが、対象会社の流動性・換金性を引き続き担保するために上場は維持しておきたいという場合は、公開買付後一定期間内に改めてこれを売却しなければならなくなります。

 

私が以前、事業会社において関与したシンガポール市場の上場会社の買収において、実際にこのようなケースがありました。買手の事業会社は、非上場会社ではありましたが、発行済み株式の約98%までの株主が公開買付に応募し、その結果買収金額は約800億円に達したのです。この対象会社は、シンガポール市場における優良企業の一つであり、このときのシンガポール財務当局がこの会社の上場維持を望んでいるとの非公式の情報が会社側に伝わりました。そこで、買い取った株式の10%を再度売り戻し、上場廃止を回避したのです。

 

補足になりますが、このシンガポール会社の買収総額800億円は、シンガポールドルで支払われましたが、当時のシンガポールドルの実需の規模、また公開買付の応募期間を勘案すると、相当の為替リスクがあると判断、これを為替予約や通貨オプションを駆使してリスク回避に成功した記憶があります。

 

 

尚、この買収価格ですが、設定価格が市場価格よりも低くなるとい事例もあります。これは、上場会社の大株主が、一定の理由でその保有株式を譲渡するインセンティブが強い場合などに考えられます。

 

以上、このように、大株主との水面下の交渉、および株式の公開買付の手続きを経て、上場会社を買収することが可能です。そして、その手続きにおいては、各プロセスでポイントがありますので、是非ご相談ください。

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