やはり多くみられるのが、当初の譲渡条件、つまり譲渡価格の設定において誤ってしまうことです。
特に会社のオーナーがその会社の創業者である場合、
ご自身が長年の努力により一から積み上げたて来た事業に対して
相当の思い入れがある場合が多く、「うちの会社は××ぐらいの価値はある」と考え、
これに固執してしまいがちです。
その価値の根拠が、他社のM&A事例での価格であったり、単に売上規模の額であったり、
また場合によってはリタイア後の人生設計に必要とお考えの金額だったっりするわけです。
このような「思い入れ価格」は、ともすると会社の現在の収益力や財政状態とは
かけ離れたものである場合も少なくなく、そうなると経済的根拠もありませんので、
どんなに良い相手であっても交渉のテーブルについてもらうこともできません。
会社の継承を決断された場合、あまりにも「思い入れ価格」に固執するあまり、
理想的な相手先への売却機会を逃してしまうといったリスクを回避することは重要です。
M&Aにおいて、買手は、原則一定の経済計算に基づいて意思決定をするものです。
例えば、買収するために支払った資金の回収が、買収によるシナジー効果を勘案しても
10年以上かかると見込まれる場合、簡単に意思決定できるものではありません。
特に買手が上場企業となる場合、買収価格に一定の合理性が欠ける場合、
それが会社本体の経営に影響を与えれば、これを推進した取締役は背任行為として
株主から追及される可能性もある訳ですから、特に大手企業の場合は価格算定には厳しいという
前提を忘れてはいけません。
一方で、企業が代替できない知的財産やブランド力を有しているために、
相当なプレミアムを支払ってこれを買収するケースがないわけではありません。
このようなケースでは、譲渡側のオーナーにとっては大きな利益が得られ、
成功のケースと言えるでしょう。
しかしながら、高すぎる価格で買収したケースにおいては、
買手側に大きな財政負担がのしかかります。
買収において見込んだシナジー効果が過大であったため、
結局は期待していたほどの収益が得られず、この会社を早期にリストラして従業員の士気が低下。
結局、会社を転売してしまうケースもあります。
このようになったら、M&Aとしてはむしろ失敗と言わざるを得ません。