平成18年に施行された現行会社法によって、種類株式活用の可能性が大きく広がり、事業承継の円滑化においても、会社の個別的なニーズに対応して、様々な活用方法が考えられます。種類株式とは、定款によってその種類ごとに異なる内容を定めた株式ですが、会社法では、以下の事項について異なる内容を定めることができるとされています(会社法第108条)。
実際、事業承継で活用される例として、以下のような種類株式が挙げられます。
①議決権制限種類株式
例えば、先代経営者の相続財産の大部分を会社の株式が占める場合、会社運営を承継する後継経営者に株式を集中させると、他の相続人から遺留分(一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分)の主張が行われる可能性があります。そのため、会社運営を承継する後継経営者には普通株式を相続させ、他の相続人には無議決権株式を相続させることで、遺留分減殺請求による株式(議決権)分散リスクの低減を図ることが図られます。
② 取得条項付種類株式
また、経営者以外の株主が死亡した場合、相続により株式が分散してしまうことがあります。そこで、「株主の死亡」を取得条項の条件としておくことで、株主が死亡した場合には会社がこれを買い取ることとし、株式の散逸を防止することができます。ただし、取得対価は分配可能額を越えての取得はできません。尚、その分配可能額とは、概ね、全財産から、法的に確保が義務付けられている「資本」や「準備金」の額を引いた額となります。これは、無制限に株主に分配すると、会社財産をあてにしている会社債権者に不測の損害を与える恐れがあるために設けられている規定です。
③ 譲渡制限株式
それから、株式の譲渡について、会社の承認を必要とする種類の株式が譲渡制限株式です。 現在では、多くの中小企業が、すべての株式を譲渡制限株式としており、そのような会社を「株式譲渡制限会社」あるいは「閉鎖会社」と言います。これにより、例えば経営者以外の者がその保有する株式を、経営者にとっては望ましくない第三者に売却しようとした場合、会社(株主総会や取締役会)はこれを承認しない判断をすることにより、株式の分散を防止することができるのです。
このような種類株式を導入する場合は、株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。例えば、譲渡制限株式を発行する場合の定款記載例は以下のようになります。
『(株式の譲渡制限) 第○条 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、取締役会の承認 を受けなければならない。ただし、当会社の株主に譲渡する場合は、承認をし たものとみなす。』
また、既発行の普通株式を種類株式に変更することも可能ですが、当該 株主の利益を害するおそれがあるため、全株主の同意が必要であるとされています。
以上、種類株式の活用にあたっては、自社の状況や経営者の希望、株主の利益に配慮した適切な設計と慎重な導入手続きが必要となります。
最後に、種類株式ではありませんが、「株主ごとの異なる取扱い」が、近年、認知症等により現経 営者の判断能力が低下した場合への対応策としても注目されています。具体的には、例えば株式の大半を後継者に生前贈与し、先代経営者は1株だけ保有している状態において、先代経営者が株主である限りは議決権を100個とする、としておく。さらに「(先代経営者)が医師の診断により認知症と診断された場合においては、議決権は1個となる」旨を定めておけば、会社の意思決定に空白期間が生ずることを防止することができることになります。 この「株主ごとの異なる取扱い」は、種類株式として登記されないため、 外部からその存在や内容を知られることがないというメリットがあります。